Q:ジャクソンさん、あなたの作詞作曲過程を教えてください
私の作曲方法は…
自分が曲を作るというより
曲が自分のところに
やってくるというものです。
私はその『源』というものです。
Q:曲が浮かんだらその次はなにをするんですか?
テープレコーダーを取り出し
音を吹き込みます。
口頭で音を作るんです。
ベースや管楽器(ストリングス)、ドラムなどの各パートの音を口ずさみながら、頭に浮かんだ曲をそのままテープに吹き込むのです。
Q:この曲(『ガールズ イズ マイン』)のストーリーを聞かせてください
それはとても簡単です。
二人の男の子が
一人の女の子をめぐって
呼びかけあってる歌です。
『彼女は僕の恋人だ』
『いや、僕の恋人だ』
という感じでね。
一人の女の子をめぐって男二人が言い争っている。そんな感じの歌です。
Q:そのアイデアはどうやって?
ひらめいただけです。
ただひらめいただけです。
クインシー(音楽プロデューサー)が僕に『思い浮かぶ曲に合わせて詞を書いてみたら』と言い、それで…
翌日 目覚めた時に詩が頭に浮かんできたので思い浮かんだ言葉をテープレコーダーに録音したのです。
Q:クインシーとは誰ですか?
クインシー・ジョーンズのことでプロデューサーであり作曲家でもあります。
素晴らしい人、偉大な人物で僕は彼が大好きです。
Q:実際のデモ・テープを聞きながらいろいろと質問させていただきます
(デモテープを聴いて)
『ガールズ イズ マイン』だ。
Q:それではテープでやっていることを実演してもらえますか?
いいですよ
(実際に歌う)
…こんな感じです。
Q:それではもっと実演を…
(少し歌うが途中でやめる)
すみません 上手く声がでない…
昨夜はコンサートだったのでうまく…
Q:あなたはいろいろ口ずさんでいますがあれは一体なんですか?
リズムやサウンドを作り出しているんです。
例えばアルバムに収録された『フーイズイット:Who is it』という曲では頭に聞こえてくる全ての音をテープに録音して作りました。
聞こえてくるベースやパーカッション、ドラムの音を口ずさむのです。
こんな感じで……
(首を回しながらリズムを口ずさむ)
こんな感じでテープレコーダーに(頭に)聞こえてくる音を忠実に録音するのです。
Q:あなたはすべての歌詞を歌っていませんね、なぜです?
それは…言葉が浮かんでからメロディができる時もありますが、言葉はメロディを伴って生まれてくるのです。
意識して作られる訳ではありません。
こんな風に…
(一小節歌う)
ひらめくというか ただ ふっとやって来るのです。
言葉がメロディと共に聞こえてくると私はあぁ、なんて素敵なんだろうと感動するのです。惑星の言葉を聴くようです。
Q:………さらに進めていきます。
(デモテープを流す)
Q:テープを止めます。ここでは何をしているんですか?
私はベースのムーブ音を出しているのです。
ベースやキーボードの音のつまみを揺らして『ウゥーンウゥーン』とうねる音を作るんですがその部分を声で真似ているんです。
(実際に歌う)
こんな風にね。
Q:あなたが歌っているこの部分は何と歌っていますか?
この部分は採用しませんでした。
Q:なぜです?
なぜなら曲が別の方向に進んでいるからです。お聴きいただくわかるようにこの『ターラララ~…』は別の曲調になっています。
聴いてみてください。
(聴いてみる)
ここです。
Q:これはどの部分を歌っているのですか?
カウンター・ラインです。
主旋律に対するサブ・メロディの部分です。
(メロディを歌う)
キーボードやフルート、ストリングス(弦楽器)などのパートがまるで音のタベストリーのように重なり合い曲を構成するのです。
*タペストリー(tapestry)は、壁掛けなどに使われる室内装飾用の織物の一種。(今で言うポスターのようなもの)
Q:では続けます。ここでは何を?
別のパートを生み出してます。
つまり デモでやることですが自分自身でやることで…えっと…
Q:具体的な楽器名で言ってください。
ピアノです。
(実際に歌う)
アクセントをつけているのです。
こんな風に…
Q:では続けます
(デモテープを流す)
『ピアノはこう』
『ハーモニーが重なりボーカルが入る…』
Q:ここでは何を言ってるのですか?
ここではハーモニーを生み出してます。
ここでやろうとしていることは聴こえてくる主旋律に対するサブ・メロディとして小節を重ねているのです。
なぜなら曲の序奏から小節に至るまで…
それはまるで花が咲くように広がっていくのです。
音を積み上げていくことで曲に息吹を与えていくのです。
それは素晴らしい作業なのです。
Q:歌のブリッジは何ですか?
(サビの部分を歌う)
Q:言葉でブリッジを説明してくれますか?
ブリッジとは何かってこと?
ブリッジとはAのパートからBのパートへ移行させる事。序奏部分から他のパートへ行く回避法のようなものです。
同じメロディを繰り返し聴いてるとつまらなくなってきますよね?
それでブリッジを用いて違う場所へいったん回避し、また戻ってくることによって以前の音がより一層効いてくるのです。
より強くね。
そうすることでより良い結果になるのです。
Q:『Girls of mine』にブリッジ部分はありますか?
はい あります。
Q:その部分を歌ってもらえますか?
(実際にブリッジの部分を歌う)
こんな感じです。
(デモテープを再び流す)
(マイケルが少し表情を嬉しそうに変える)
Q:この部分では何を?
無理矢理創作するのではなく、見つけ出しているのです。しかるべき姿を探しだしているのです。
曲が進みたがってる方向を探しています。
ブリッジを用いて曲に変化をつけてもいます。
最近(当時1993年)作った曲『ストレンジャー・イン・モスクワ』もそうですが、同じようなディテールを作りました。
頭に聴こえてくる音楽を口頭で録音しましたが声は一つしか出せないのでとても難しいのです。(和音が表現したいが声では不可能という意味?)
聴こえてくる音楽を実際に表現するのは難しいのです。
ベストは尽くしていますが…
Q:コードとは何ですか?
コードとは何か?
コードとはハーモニーで…
その場 その時に表現される音で…
音楽そのものです。
(デモテープ)
『ブリッジ部分のコーラスは…』
Q;ここでは何を?
ブリッジへつながるコードです。
私は自分の考えをコードにまとめ曲の輪郭を描き出そうとしてます。
頭にあるメロディと一体にさせるのがコードの役割です。
とても重要な作業です。
Q:ここではなにを?
バック・グラウンドの音を作っているのです。デモテープ作りでやるのです。
一つ一つの音を口で表現しているのです。
6つの異なる長和音の一つ、ハーモニーの箇所です。(コードの根音のこと?)
異なる音程のハーモニーを重ね合わせることで調和を生じさせ音楽に厚みを持たせます。
一つ一つの音の集合体がこの曲を包み込んでいるのです。
Q:ここの部分ではなにを?
ブリッジを確認しています。
(拳を突き上げる)
ここです。
Q:何がですか?
ここなんです。
ブリッジが見事に生み出された瞬間です。
Q:実際の録音で何か変更がありましたか?
変更?
そのデモから?
えぇ…はい。
Q:何を?
ギター部分を変更しました。
Q:ブリッジでは?
えぇ、ブリッジが少し伸びました
Q:誰が提案したのですか?
クインシーだったと思います。